藤岡 正巳
(04)気功の歴史
気功最古の活字資料「行気玉佩銘」
【 気功の源流 「仏家, 儒家, 道家, 武術, 中医学」 】
「気功の歴史」について調べてみると, 多くの人がその源流は「仏家, 儒家, 道家,
武術, 中医学」などにあると書かれています。それでは気功の源流とはどういう
ことを意味するのでしょうか。試みに, 気功の源流とされている「仏家, 儒家, 道
家」が生まれた時代を調べてみると, こんな結果が出てきます。紀元前500年頃
に,インドでは「仏教」が釈迦によって創始され,中国では同じ頃の春秋時代に
孔子によって「儒家」が開かれ,次の戦国時代の末(紀元前200年頃)になると,
荘子が「道家」を興しました。二千五百〜二千三百年前の出来事です。日本人
が戦後に受けた歴史教育は,ヨーロっパ史一辺倒だつたので,東洋史に弱いと
思われますので,これをヨーロっパの歴史で比較すると,古代ギリシャのアテネ
で民主制が確立した頃から,ヘレニズム文化を経て, 古代ローマが勃興し始めた
時代に相当します。偶然かどうか, 紀元前500年頃にインドで, 中国で, 地中海文
化圏で,いっせいに高度な知的文化が花開いたのです。気功の源流と考えられて
いる「仏家, 儒家道家」は, 紀元前500年頃に生まれたのです。それでは気功自
体は, どのような歴史をもつのでしょうか。
【気功最古の活字資料「行気玉佩銘」】
「気功の存在」が確実に証明される最古の活字資料に「行気玉佩銘」(ぎょう
きぎょくはいめい)があります。これは戦国時代初期(紀元前470年頃)のもので,
装飾佩帯玉器の十二面の各面に45文字の銘文が彫られています。この45文
字の銘文は,呼吸の鍛錬法を描いたもので,原文は以下の通りです。
『行気、深則蓄、蓄則伸、伸則下、下則定、定則固、固則萌、萌則長、長則退、
退則天、天几春在上、地几春在下、順則生、逆則死』
この銘文を郭沫若氏が解読し,次のように解釈されています。
『「呼吸は深ければ深いほど、吸い込む空気が多い。それを下へ導く。下で固
めしっかりさせる。それから吐き出す。草木の萌ゆる如く上へ上げ、吸い込ん
だ経路を上までさかのぼって吐く。そうすれば「天機」が上に「地機」が下に
向く。このようにすれば生、逆にすれば死』(馬済人著「健康・医療気功ハンド
ブック」ベースボールマガジン社)。 「行気玉佩銘」の年代が紀元前470年頃と
すれば,確実に辿れる気功の歴史は,釈迦や孔子の時代に相当することにな
ります。
【「舞蹈紋彩陶盆」 紀元前5000年前の動功の舞】
中国での文字の使用は,殷代後期の紀元前1300年頃の甲骨文字をもつて初めと
されているので,これ以上古い時代の気功に関する活字資料は,今のところ期
待はできません。あるとすれば,土器や石版に描かれた気功の鍛錬風景を表す
「絵」の発見です。1973年,中国青海省大通県上家寨の新石器時代の馬家窰文
化遺跡(新石器時代晩期4000〜5000年前の遺跡)の墳墓の中から「舞蹈紋彩陶
盆」(ぶとうもんさいとうぼん)が発見されました。馬家窰文化は,黄河中流域で栄
えた新石器時代のアワ,キビなどを栽培した農耕文化である仰韶(ヤンシャオ)文
化(紀元前5000年〜)を基礎にして発展したものです。
「舞蹈紋彩陶盆」は口径が28p,高さは10pの少し大きめの器盆です。こ
の器盆の表面に,お下げ髪のような,リボンのような物を付けた五人の踊り子
が,互いに手と手をつないで踊っているような動作が描かれています。この舞
蹈が何を意味しているのか,求愛,遊戯,巫術,動植物や自然の崇拝,祖先や
神霊の崇拝と,さまざまに意見の分かれるところです。ところが,これを「気
功の鍛錬」とする人もいます。前述した馬済人氏は『後漢の文学者傳毅は「舞
賦」の中で,それ(舞を指す)は,単なる一種のスポーツ・芸術活動ではなく,
老衰に抗する長寿法であると述べている。(中略) これが古代の早期気功の「動
功」で,「舞」といわれた。(中略) 「舞蹈紋彩陶盆」に描かれた絵は,はっき
りした古代中国の「舞」の動作である』(上記)と書かれています。柴剣宇氏は
『青海省から出土された文物「舞蹈紋彩陶盆」には,気功の鍛錬の様子があら
わされています。この文物は,5000年以上前のものとみられており,気功の歴
史の長さを知ることができるでしょう』(「気功の基礎入門」日東書院)と記し
ています。
【 「仏家・儒家・道家」の中で体系化 】
もしも,「舞蹈紋彩陶盆」の絵が気功の鍛錬を表現しているしたら,気功の歴史は
「仏家, 儒家, 道家」などとは,較べものにならないほど古いということができます。
かつて「気功の始まり」について,林厚省は『人類が生存していくためには,人間
自身のもつ機能をふるいたたせて,大自然のもたらす数々の試練と闘い,それに
打ち勝ち千変万化する大自然の環境に適用しなければならなかった。(中略) こ
れらの中で襲いかかってくるいろいろな疾患に抵抗して,自分自身を保護すること
の重大さが認識され,こうした認識が深めるられ,また予防治療のために自分自
身の鍛錬力そのものを向上してきたのである』(「中国気功法」たま出版)と書いて
いました。この「気功の始まり」が信憑性のある仮説とすれば,気功が都市文明化
された環境の中から起こってきたものとは考えにくいということになります。また,
気功の最古の活字資料である「行気玉佩銘」が,「仏家・儒家・道家」と同時代で
あるからといって,気功の発生が,孔子の「論語」やソクラテスの「饗宴」などのよ
うに,前頭葉をフルに使った高度な知的文化の産物とは到底考えられません。気
功は,高度な知的文化が花開く時代の,そのはるか以前に生まれ, 紀元前500年
頃の高度な知的文化が花開く時代に「仏家・儒家・道家」の中で体系化され, 今日
の気功の源流となったものと思われます
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【やさしい気功のミニ講座】
発行元: 日本気功倶楽部
監 修: 藤岡 正巳 (主席指導員)
編 集: 正田 竜二
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