藤岡 正巳


(03)気功の始まり
 
特異体質の人々から始まった?




【 馬濟人師の説 】
   
   
   気功の始まりについて,中国の気功界では,意見が一致しているように見えま

   す。少し長くなりますが,気功が生まれてくる過程が分かりやすく説明されて

   いるので,馬濟人師と林厚省師の二人の説を引用したいと思います。馬濟人

  師は,「健康・医療気功」(ベースボール・マガジン社)の中で,気功の始まりに

   ついて,次のように書いています。『中国の古書「尚書」と「呂氏春秋」の記

   すところによると,唐堯の時期,中国の北方の中部地域(黄河流域)では,つね

   に河水が氾濫して洪水が発生し,いたるところに水がたまって湿度が過度に高

   くなり,そのため多くの人々は,手足がむくみ,関節がおかしくなる病気が発

   生した。そこで人々は,平常生活の中で積んだ知識から考えだした,上肢や下

   肢や体を動かす動作をいくつか採用して,筋肉のしこりをほぐし,骨格を丈夫

   にし,血流が滞りなく通るようにして体の健康を保つことに努めた。これがつ

   まり古代の早期気功の「動功」で「舞」ともいわれた。』   
   


   
【 林厚省師の説 】   
   
   
   林厚省師は,「中国気功法」(たま出版)の中で,まず気功が生まれる理由を,

   次のように説明しています。『人類が生存していくためには,人間自身のもつ

   機能をふるいたたせて,大自然のもたらす数々の試練と闘い,それに打ち勝ち,

   千変万化する大自然の環境に適用しなければならなかった。(中略)これらの中

   で襲いかかってくるいろいろな疾患に抵抗して,自分自身を保護することの重

   大さが認識され,こうした認識が深めるられ,また予防治療のために自分自身

   の鍛錬力そのものを向上してきたのである。』林厚省師は,大自然が人間にも

   たらした過酷な環境に適応し,生存してゆくために気功は,その鍛錬法として

   発生したと言うのです。

   そしてさらに,その鍛錬法の発生のプロセスを具体的に描写して見せてくれま

   す。『寒い時には風を避けて日だまりに座って暖をとり,座る姿勢も,自然に,

   伸ばしていた脚を縮めて胴体にピッタリくっつけ,両手を下腹部(丹田)におき,

   口も自然に閉じ,暖がとられる姿勢をとっていた。空気の希薄な所では,自然

   に深呼吸をし,それを長いことやっているうちに,腹式呼吸ができるようにな

   った。人々はこうした動作の中から多種多様な方法を総括していったのである。

   こうした中で古い形の吐納・導引・行気などという方法が編み出され,それを

   土台にして,方法が完全化され,ついに今日の気功にまで進化してきたのであ

   る。』と説明してくれました。

   

【 素朴な疑問 古人と現代人は同じか 】

   
   これらの説が,気功の始まりについての中国の気功界の定説と言えそうです。

   原始の時代に気功が芽生え,そして紀元前後の「漢」や「唐」の時代には,気

   功の理論や功法が数多く登場し,同時に「黄帝内経」などの古典が著され,中

   国医学の体系も整えられたと言うのです。これには充分に説得力があるので,

   異議を唱えるものではないのですが,気功を始めた頃の古人と私たち現代人と

   では,はたして同じ五感の持ち主であったのかどうか,という疑問が残ります。

   目が疲れたとき自然に,鼻の付け根にある清明穴を指で押さえることがありま

   す。これが気功の始まりだと言うのです。気功がいかに経験科学といえども,

   このような個々の事象を寄せ集めただけで,あんなにも複雑な体系が確立でき

   るでしょうか。たとえば,中国最古の薬物書である「神農本草経」は,伝説上

   の帝王の一人である「神農」が,百草を舐めながら毒と薬とを区別して著した

   という伝えがあります。このやり方なら,多数の犠牲者を覚悟すれば,不可能

   でないような気もします。しかし十二正経の図を見ると,どうして経絡やツボ

   の位置を,あんなにも正確に描写できたのか不思議です。もし現代人が,ゼロ

   から出発して気功を始めたとしたら,私たちが今日,目にするような体系を作

   ることができるでしょうか。



【 動物脳と感覚の退化 】

 
   気功と無縁な人でも「気」を見ることができますし,ましてや気功をたしなん

   でいる人であれば,それはなおさら特別な現象ではないでしょう。指先から出

   でいる「気」は、薄暗い場所にいけば,ほとんどの人が見えると思います。とこ

   ろが,現代人の中にも並でない能力の持ち主が存在しているのです。私の友

   人に馬歩椿の姿勢をとると,両腕にある沢山のツボから内気が噴出してくるの

   が見える,という特異体質の人がいます。彼は「口をすぼめて息を吹きかけて

   も動かないので,お線香の煙のようではない」と話してくれました。さらには,

   中国で経絡が見えるという少女がいたと聞きます。現代でもなお,このような

   特異体質の人が存在しているのですから,気功を始めた頃の古人は,どこに

  でもごく普通にいたと想像されます。今日のように少数派ではなく,多数派で

  あったのではないでしょうか。治療のことを「手当て」といいますが,実際に古

   人は,故障した部位に手をかざして治療をしていた節があります。一指禅功の

   多くの治療法の中にも,「手当て」に近い原始的な外気治療法が,今なお残っ

   ています。三百数十年前に「サル」から「ヒト」に分岐した私たちの祖先は,

   二本足歩行することで,両手で道具を使うことができるようになり,やがて思

   考を司る前頭連合野を極度に発達させてきました。その代わり,特に現在の日

   本人は,生活サイクルの乱れ,睡眠不足や運動不足,強いストレスなどによっ

   て,生存に不可欠な動物脳を退化させたように見えます。気功の鍛錬を通じて,

   この退化した動物脳と感覚を復活させたいものです。




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   【やさしい気功のミニ講座】
   
   発行元: 日本気功倶楽部
   監 修: 藤岡 正巳 (主席指導員)
   編 集: 正田 竜二
   
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