並木克敏(天地一道)著

「バーチャル気功空間 気の世界」

2001.05.05 創刊




第六章 気との遭遇 その2
   
(06-02) あくびの効用

副交感神経の作動ボタン

2005年01月31日 (No.66号)
   


 【 落語 「あくび指南」 】


「あくび」と聞くと, 私は落語の中でも最も他愛のない噺のひとつ, 「あくび指南」

   をつい思い浮かべてしまう。古くは, 「五代目古今亭志ん生」師匠が, 今では独

   特の「間」で語りかける「柳家小三治」師匠のとぼけた調子が特に味わい深い。

   「あくび指南」とは, 歌舞音曲と同じように習い事として, お師匠さんが生徒にい

   くつかの種類のあくびの稽古をつけるという噺である。ここでは, 普通のあくびを

   低級な「駄あくび」と退け, 春夏秋冬の高級な四季のあくびを, 稽古を通じてマ

   スターさせようとするものである。一例を挙げると, 冬のあくびとは, コタツから出

   てきたネコが, あくびをするのを見て, 「連れあくび」を稽古するのである。こんな

   稽古なのだから, 噺の内容は取るに足らないというか, 馬鹿馬鹿しいというか,

   この上なく他愛ないのである。けれども個人的には, 「そこつ者」「そこつ長屋」

   や「与太郎」ものなどの, 日常生活には何の役にも立たない滑稽噺が好きであ

   る。落語の中の「あくび指南」は, まったくの他愛ない噺に過ぎないけれど, 現

   実に「あくび指南」というものが, この世に存在していることを読者はご存知だろ

   うか。たまたま, ネットサーフィンをしていて見つけたのだが, 「片桐祿郎のホー

   ムページ」(http://www.nct9.ne.jp/houju-r/)の中に「あくび呼吸法」というもの

   があった。読者も一寸覗いてはどうだろうか。



  
【 「あくび」とは 「無意識の深呼吸」説 】
   
   
   「あくび」は, 誰もが日常生活の中で無意識のうちに出てくるものなのであるが,

   人間が生きていくうえで, 「あくび」がどんな役割を果たしているのかを改めて

   問うてみると, 意外に説明の難しい現象なのである。最も一般に知られている

   ものに, 「無意識の深呼吸」説がある。これによると, 「あくび」とは, 酸欠状態の

   脳に大量の酸素を補給するために行われる, 「無意識の深呼吸」だというので

   ある。 脳は, ブドウ糖を分解してエネルギーを採り入れるが, このとき大量の酸

   素が必要とされる。人間の脳は, 体重の2%程度の重さしかないのだが, 身体

   全体で消費される酸素の20%ほどが脳で使われてしまう。脳とは, 身体の中

   で最も活動的な部位ということになる。それだからこそ, 根をつめて仕事をした

   り, 勉強したりすると, 酸素の消費量は増えて酸素不足となる。脳に新鮮な酸

   素が不足すると, 活動のレベルが低下し, ボーとして思考がうまくできなくなる。

   そこで, 酸欠状態をいっきに解消させようと, 呼吸中枢が深い呼吸をするように

   指令を発し, 無意識のうちに「大アクビ」が出るというのである。この「無意識の

   深呼吸」説は, 「あくび」が酸素を補給して脳を覚醒させ(活を入れる)、交感神

   経を刺激するというものである。おそらく, 「あくび」 とは何かと尋ねられたら,

   多くの人が「脳への酸素の補給」と答えるであろう。



   【 「あくび」とは 「肺胞に活を入れる深呼吸」説 】   
   

   「あくび」の役割について, 一般に言われている「無意識の深呼吸」説に対し

   て, 肺の機能から捉えられたもうひとつの仮説がある。肺の中での酸素と二

   酸化炭素のガス交換は, 気管支の先端にある約3億個の肺胞の薄い膜を

   通して行われる。ガス交換の仕組みについて, 少々しつこいようだが, 生命

   活動の偉大さを感じせるものなので触れてみたい。肺胞は, 空気が送り込ま

   れてくると, ゴム風船のように膨らむ。この肺胞の薄い膜に毛細血管が接し,

   酸素は肺胞内から毛細血管へ送られ, 逆に二酸化炭素は毛細血管内から

   肺胞に放出されるのである。これを可能にするのが, 赤血球に含まれるヘモ

   グロビンの働きである。ヘモグロビンは, 酸素の多いところでは酸素と結合し,

   薄いところでは酸素を放出する性質をもっている。同様に二酸化炭素に対し

   ても同じ働きがある。なんと, 生命は偉大ではないか。

   本筋から少し逸れたので元に戻したい。この肺胞に送り込まれる最大の空

   気の量(肺活量)は, 成年男子の平均で3000〜4000ccぐらいである。しかし,

   通常の呼吸では, 1回に500ccぐらいしか出し入れするに過ぎず, 約3億個

   の肺胞の20〜30%は, つぶれたままの状態で休眠していることになる。身

   体の各部位は, 使われないと退化することになるので, 「あくび」によっていっ

   きに空気を送り込み, 肺胞を膨らませて活動を促すというのである。つまり,

   「あくび」は肺胞に活をいれて, 退化を防ぐために行われる無意識の動作で

   あると。



   【 「あくび」が出るとき 】   


   「あくび」の役割については, 「無意識の深呼吸」説と「肺胞に活を入れる深呼

   吸」説の二説を紹介してきたが, 福原武彦氏によると, 『(あくびの原因は)今日

   なお十分にわかっていない』と言うのである。『あくびが起こる原因には,中枢

   神経系における酸素欠乏,中枢の疲労,機能異常などが推測されてきている

   が,あくびの原因の生理学的機序,関係する神経回路や生理的意義は今日

   なお十分にわかっていない。』(平凡社世界百科大事典)と記されている。とす

   ると, ここに素人の体験を基に, 「あくび」の役割についてアプローチできる余

   地がありそうである。さらに福原武彦氏は, 『成人では(あくびは)次のようない

   ろいろな状況で起こる。眠りにつく前,眠気を感じたとき,睡眠不足のまま目覚

   めたとき,精神的および身体的に疲労したとき,退屈したとき,空腹時などであ

   り,これらの状況は外環境に対する注意力が減退している点で共通している』

   (同上)とある。ここで注目したいのは, 誰でも経験することなのだが, 「眠りにつ

   く前」に「あくび」が出ることである。昼間になにか嫌な事件と出会い, 布団の中

   に入ってから神経が高ぶって, なかなか寝付かれない経験を, 誰もが何度かは

   していることだろう。神経が高ぶって緊張しているときの状態を, 自己観察して

   みると, 一度たりとも「あくび」が出たことがない。右に左にと寝返りを打つものの

   意識だけは冴えわたるばかりである。空が薄っすらと明るくなってきた頃, やが

   て緊張状態が緩み, 身体が疲れを感じ始めると, 小さな「あくび」が出ていつし

   か眠りにつく。もし, 「あくび」が酸素を補給して脳を覚醒させ、交感神経を刺激

   するというものであるならば, 「眠りにつく前」に「あくび」が出ることは, 生理的に

   大いに矛盾するものである。脳が眠たいのに, 脳が覚醒の信号を送ることがあ

   りえるのだろうか。これでは, 誰もが不眠症に悩まされてしまうではないか。



【 体験的「あくび」論 】
   
   
   「眠りにつく前」の「あくび」は, 緊張から弛緩への過程で出るのであって, 脳を

   覚醒させるためのものではなかろう。私は今コンピューターに向かって, この文

   章を書いているけれど, 考えながら書いているときには「あくび」は出ない。机か

   ら離れて庭の花や野菜をボーと見ているとき, 他人にはあまり見せたくないほど

   の「大あくび」を連発してしまう。私の経験では, 「あくび」が出るのは作業中で

   はなく, 作業をいったん中止して, 空間を変えたり, 気分を変えたりするときであ

   る。「あくび」と「深呼吸」の決定的な違いは, 「あくび」には強烈な快感が伴うと

   いうことである。しかも「あくび」は深呼吸するだけでなく, 背伸びをはじめ, 『喉

   頭の下降,鼻翼と軟口蓋の上昇,舌の後下方への移動,声帯の外転,口の

   開大,口蓋帆張筋の収縮,閉眼,流涙,頭部の後方への伸展』(同上)と身体

   の内外でかなり複雑な動きをしている。「あくび」に伴う快感と, この全身にわた

   る複雑な身体の動きが, 緊張から弛緩へ, 交感神経から副交感神経へのスイ

   ッチの役割を果たしているように思える。身体と脳の疲れが, 「あくび」をするこ

   とで解消されることは, 誰もが体験的に知っていることである。「あくび」とは, 身

   体と脳に送られた「お休みしなさい」との信号なのである。その点で「あくび」は,

   「無意識の気功」と言えなくもない。私の場合は日常生活の中で, 首の後ろを

   揉むことで, 意識的に「あくび」を誘発させて, 身体と脳の緊張をほぐしている。
  
   首の後ろには沢山のツボがあるので, この部分をよく揉むと, 脳のリラックス効
 
   果が期待できるのである。もし貴方に, 頭が冴えて眠れない夜が訪れたとき,
 
   首の後ろを次の要領で揉んでみてはどうか。仰向けの状態で, 首の後ろに手

   の平を枕のように当てて, 交互に左右の手で首筋を揉むと, 頭がぼっとして「あ

   くび」が出て, やがて緊張が解けて眠りに落ちることだろう。このとき, 頚椎は揉

   んではならない。不眠症の方はお試しあれ。



 
   
** 会員からのメッセージ ***********************


『三セット目に気感あり』(石川県 Aさん♂)
   
   『新しい気感が出てきました。第六秘伝功法をしていたら三セット目に, 尾?
   骨の辺りをちょっと強く打ったときみたいな気感が出てきました。多分, 「尾ろ」
   ってところだと思っているのですが・・・。仙道の小周天を少しかじったのです
   が, そのときはこの部分に気が流れてきている自覚がないままに一周してしま
   ったのでして・・・。今の功法はかなりいいんじゃないかな?って思ってます。
   第五秘伝功法より時間は少ないですが, 終わった後に腰の辺りがスキッとしま
   す。そして第五秘伝功法よりたっているのがつらいです。結構内気が充実し
   てきたのでしょうか?』
   

  『上海に行って来ました』 (NHさん♂)
  
  『こんにちは!この前中国上海に行く機会がありました。残念ながら気功をや
   っている人はみつかりませんでしたが・・・なんかあっちは空気が汚いし、飲ん
ではいませんが水もなんとなく泥くさい感じがしました。空も曇って見えます。
   あれなら日本の方が気功するにも環境がいいですね!
   最近の状況ですが風邪気味です。冬なのに窓開けて練功したのが原因かな
   っと思っています。でもよく考えると毎年1度は風邪を引くのですが今回は喉
   が痛いのと頭が少し痛かったくらいで熱は出ませんでした。これの日々の練
   功の成果かなと感じていますが・・ ところで風邪気味の時は練功しないほう
   がいいのでしょうか?それともそんなときこそやったほうがいいので しょうか?
   もしやるとしたらどの功法をしたらいいのかおしえてください。』

   
    『自発動功についての質問』 (THさん♂)
   
    『いつもお世話になっております。一指禅功における自発動功についてお尋
   ねします。私は、他の自発動功を一度習ったことがあります。それは、立った
   姿勢で目を閉じ音楽を聞きながら動きたくなったら逆らわずに動きたいように
   動くというものでした。私の場合全くその状態に入れずシラケルばかりでスグや
   めてしまった経験があります。その自発動功は入門して三円式たんとう功の姿
   勢を習ってすぐ、気功の初心者の段階(今もそうですが)で習いました。自発
   動功は自分の身体のお医者さんであるとのことでした。そして、自発動功には
   賛否両論あり、弊害があるとしている流派もあると聞きました。
   そこで、お尋ねしたいのですが一指禅功の自発動功は、どの段階で習得可
   能でしょうかまた、自分の意思と関係ない状態になるということで、その隙に
   魔がつくという霊的な問題を指摘する説もあるようですが、いかがでしょうか。
   以上よろしくお願いします。』


    ■ご質問にお答えします■

『自発動功ですが, 一指禅功では外気功中級の段階で行います。気血の流
れがスムースになっていないと無理ですので, 初心者にはかなり困難だと思
   われます。自発動功だけでなく, 意念を使う流派には, 常に偏差の危険が伴
います。一指禅功は, 意念を使わないので偏差の危険はありません。霊がど
   うこう言う流派は, まったく信用しないことです。お粗末過ぎます。』



** 購読者コーナ *************************


    □ 意見 「呼吸法と意念について」□   
  
   『はじめまして。わたしは現在太極拳をやっていますが, 一指禅功では呼吸
   法や意念を使わないというのは本当ですか。呼吸法や意念を使わずに, 調
   身だけで内気は流れるものなのでしょうか。とても不思議に感じます。その
   辺はどうなっているか, 教えて下さい。』(大阪 おばさん♀)

   
   ※倶楽部より一言
 
   『一指禅功では, 通常は呼吸法や意念を使いません。それでは, どのようにし
   て体内で内気を流すかと云えば, いろいろあるのですが, そのうちの一つにツ
   ボを使う方法があります。練功中に自分の手の平や指先から内気を発して,
   身体の特定のツボに気を送り, 気血循環を促すというものです。自分の内気を
   いったん身体の外に出して, その内気を再び体内に収めるというものです。太
   極拳にはない訓練法なのです。一指禅功では, 練功しているときからすでに,
   内気外発(気を出す)のためのトレーニングをしていることになります。』



 
   ※気功やこのメルマガの内容に関して, ご意見やご質問がありましたら, 是非
   
お寄せ下さい。お待ちしています。
   
    Email aam13920@nyc.odn.ne.jp  編集  正田 竜二
  



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【バーチャル気功空間 気の世界】月刊
                                   
    発行元: 日本気功倶楽部
   監 修: 天地 一道
   編 集: 正田 竜二


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