並木克敏(天地一道)

「バーチャル気功空間 気の世界」

2001.05.05 創刊




第四章 気と社会
   
(04-09) 身体に借金する時代

身体に貯金する世代 (No.49)

   

2003.08.10
   


   【身体に貯金してきた世代】   
      
       
   
私の母は, 明治34年の深川の生まれで, 93歳で他界した。晩年には痴呆になっ

   たものの, 生涯を通じて病院とは無縁の人で, 子供の頃に一度だけ風邪で寝込

   んだのを記憶している。母方は長寿の家系とみえて, 母だけでなく兄も弟も,

   共に90歳前後まで生きた。子供の頃からおじさんの生活とも接してきたので,

   長寿の人に共通している生活パターンが, 狭い体験ではあるけれど多少見えて

   くる。知り合いの長寿の人も加えると, 俗に言うところの「長生きの条件」は,

   こんなことが言えそうである。まず, 好き嫌いがなく何でも食べる, 米は八十

   八と書くようによく噛む, 腹八分目で大食いしない, じっとすることなく身体

   をよく動かす, 早寝早起きと規則正しい生活を心がける, くよくよしない楽観

   的な心, と。しかし一寸考えてみると, この「長生きの条件」は, 戦前まで少

   年少女期を過ごした世代であれば, 模範的なものというわけではなく, むしろ

   当時の人々の標準的な生活パターンであった。好き嫌いできるほど, 食卓上の

   食物は豊かではないし, スルメやせんべいなど柔らかい方で, 梅干の殻を歯で

   割って中の種を食べ, 電化製品も自転車もないから, 家の中でも外でも身体を

   動かざるをえないし, ラジオさえ贅沢品で一般の家庭にはないのだから, 早寝

   せざるをえないのである。それにストレスも少なかっただろう。



   【理想的な食生活 動物性蛋白質と植物性蛋白質の比率】

   
   驚くべきことに現代人から見れば, こんなにも模範的な生活をしていたのに,

   戦前まで日本人の平均寿命は, 50歳にまで達していなかったのである。人生わ

   ずか50年であった。それが1985年には日本人は, スエーデンを抜いて平均寿命

   が世界のトップに躍り出た。そのとき平均寿命は, 女81.77歳, 男75.91歳であ

   り, その後も男女共にその記録を更新し続けている。この脅威的ともいえる長

   生きの原因を, 識者は「医療技術の進歩」と「食生活の改善」に求めている。

   特に「食生活の改善」では, それまで食べることが極端に少なかった動物性蛋

   白質を, 日本人は戦後, 生活の欧米化と共に食卓に載せるようになった。柴田

   博氏(桜美林大学教授)によれば, 「動物性タンパク質の摂取比率と平均寿命

   との因果関係については統計的にも明確に表れている」と断言する。「平均寿

   命の高い欧米諸国は動物性タンパク質の摂取比率が60%-70%以上。平均寿命が低

   いアジア諸国は20%-30%。ちなみにインドは10%で平均寿命は50歳」。そして,

   「今から20年ほど前、日本人の動物性タンパク質と植物性タンパク質の摂取比

   率が(理想とされる)1対1になる。この時、日本は世界一の長寿国になった」

   というのである。しかし, タンパク質は植物性でも補給できるのに, なぜ植物

   性ではなく、動物性タンパク質なのか。「我々の生体活動は体の設計図ともい

   える遺伝子DNAの指令によって行われる。これにより20種類のアミノ酸が合成さ

   れタンパク質が作られるが、アミノ酸には体内合成できるものとできないものが

   ある。このアミノ酸を過不足なく摂れる食品が動物性には多い」からであるとい

   う。



「長生きの条件11カ条」】

   
   伝統的な和食を基本として, それに動物性蛋白質を中心とした欧米風の食事が

   加わり, 「和洋折衷」の理想的な食生活が, 1960年から1970年代にかけて完成

   され, それが日本人を長寿世界一に押し上げたというのである。確かに人間の

   身体は, 肉や骨や五臓六腑も, 気や血や津液も, みんな食べ物を材料にして作

   られている。食べ物は, 人が生存するのに不可欠な物質であり, 長寿の基礎的

   な条件であることは間違いない。しかし, それだけで長寿を保証するものでは

   なかろう。長生きするためには, 食べ物という基礎的条件に加えて, 広く生活

   習慣を含めた必要条件があると思われる。

   ここに公的な機関によってまとめられた「長生きの条件11カ条」というものが

   ある。東京都老人総合研究所が、東京小金井市に住む高齢者の追跡調査を通じ

   て得た「長生きの条件11カ条」である。それによると, 「第1条.血液のアル

   プミン(蛋白質)が多い 第2条.血色素(ヘモグロビン)が多い 第3条.

   太り方は中ぐらい 第4条.握力が強い 第5条.短期の記憶力がよい 第6

   条.スポーツの習慣がある 第7条.煙草を吸わない 第8条.お酒を少し飲

   む 第9条.社会活動性が高い 第10条.牛乳を飲む 第11条.油脂の料理を

   よく摂る」人が長生きしているというのである。



【在的な長寿の「種」を開花】

   
   これを私の母との場合と比較してみると「第1条の血液のアルプミン(蛋白質)

   が多い」と「第2条の血色素(ヘモグロビン)が多い」は, 不明でなので省略

   するが, 第3条〜第11条まではぴったりと当てはまる。第6条の「スポーツの

   習慣がある」というのは, 家事労働を朝から晩まで休むことなく, 小まめに行

   うことで有酸素運動をしていたことになる。また, 第4条の「握力が強い」と

   は, 食べ物を噛む咀嚼力と関係しているそうで, 食べ物をよく噛む習慣があっ

   たことを意味している。このようにみてくると, 長寿世界一になった日本の老

   人世代は, 戦前の育ち盛りの乳幼児期に貧しいながらも適度な栄養が与えられ,

   そして自然のサイクルに従いながら, 自然の恵みを受け入れて「長生きの生活

   パターン(生活慣習)」を実践してきたのである。戦後になると, 医療技術の

   急速な進歩と共に, 栄養状態の急激な改善によって, 潜在的な長寿の「種」を

   開花させたと言えないだろうか。少なくても「棚からぼたもち式」ではなく,

   基礎的な体力が維持されていたからこそ, 成し得た快挙だと思う。かつて「ジ

   ャパン・アズ・ナンバーワン」と称するものは, 政治以外では, どんな分野で

   もゴロゴロしていた。しかし, 今や「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は, 長

   寿など数えるほどになってしまった。



【糖尿病 深く静かに潜行】

   
   厚生労働省は8月6日に「糖尿病実態調査」を発表した。それによると, 糖尿

   病が疑われる人の総数は1620万人で, この5年間で250万人が増加したという。

   毎年50万人ずつ増えていることになる。食生活で理想とされている, 動物性蛋

   白質と植物性蛋白質の比率1:1が崩れ, 脂肪分の摂り過ぎということなのだ

   ろう。長寿世界一の「日本」の前に立ちはだかる, 飽食の時代の強力な敵の登

   場を予感する。日本人は欧米の人と較べて, 飢饉に備えて脂肪を細胞の中に蓄

   えようとする, 貧乏の遺伝子の働きがやたら強いという。欧米風の肉中心の食

   生活への傾斜は, 遺伝子レベルで糖尿病を拡大生産するのはごく自然である。

   すでに, 糖尿病の疑いがある人は, 6.3人に1人というから深刻である。糖尿

   病の遠因になっている運動不足や野菜不足も, それを解消するにはかなりの努

   力が必要とされる。特に, 有酸素運動を毎日続けるのは, 強い覚悟と気合が不

   可欠である。ところが多くの人は, 残念ながら三日坊主で終わらせてしまうの

   である。また糖尿病自体も, 痛いとか苦しいとかの強い自覚症状がないだけに,

   やっかいな病気である。先ほどの調査では「糖尿病が強く疑われる人」の40%

   が, 治療が必要なのにまったく受けていないという。旨いものを食べたいとい

   う欲望, 身体を動かし努力するのを嫌うイージーな生活態度, 糖尿病の自覚症

   状の無さ, 遺伝子レベルでの日本人の糖尿病の罹りやすさ。そのどれをみても

   長寿世界一は, 風前のともし火のように見える。そしてまた, 糖尿病という病

   気は, 現代日本人の今を象徴しているように見える。糖尿病は, 深く静かに潜

   行するだけに, 気がついたときは手遅れだということにならないように祈るだ

   けである。


  
         
** 会員からのメッセージ ********************


『老化防止のために』(函館 T.Nさん♂)
   
   『私は退職して三ヶ月たちましたが, やることが当面見つからないので, ま
   ずは健康の維持のためにと考えて, 気功をインターネットでできないかとホ
   ームページで調べてみました。すると「バーチャル気功道場」に行き当たり
   ました。しかし, 気功師になりたいわけでもないので, 躊躇していました。
   今回, 「慢性病防治法専科」が作られたというので, 案内状を送ってもらっ
   たところ, 老化防止やボケ防止などの専科もあり, 私にもできそうです。急
   がず, ぼちぼちやってみたいと思います。』
      


   ※気功やこのメルマガの内容に関して, ご意見やご質問がありましたら, 是非
   
お寄せ下さい。お待ちしています。
   
    Email aam13920@nyc.odn.ne.jp 編集 森澤陽子(准指導員)
  



      
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        【バーチャル気功空間 気の世界】隔週  
                                   
    発行元: 日本気功倶楽部
   監 修: 天地 一道
   編 集: 森澤 陽子


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