並木克敏(天地一道)

「バーチャル気功空間 気の世界」

2001.05.05 創刊




第四章 気と社会
   
(04-06) 今,現代人に求めらているもの

記憶力より思考力と感受性(No.46)

   

2003.05.22
   


   【前例主義の時代 記憶力優先】
   
   
  
 かつて,十年後,二十年後の「自分」が見えていた時代があった。おそらく今

   から十年後には,会社の係長になり,妻と子供の四人家族でマンションに住み,

   二十年後には,課長に昇進し,大学生の子供たちと一戸建てに住み,その十数

   年後には,退職して妻と二人で旅行を楽しんでいるだろう,と。時間は十年単

   位で動いていたのである。経済が,右肩上がりの安定した社会であったからこ

   そ,描けた幸せな「自分史」であった。この時代の勝者の条件は,些細なもの

   まで含めて過去の成功体験を徹底的に学ぶことであった。十年単位で社会が動

   いているのだから,過去の体験と現実の「ずれ」は微調整で事足りた。過去の

   体験を基にして,現在を判断する「前例主義」が通用したのである。そこには,

   なによりも世界をリードしていたアメリカという強力なモデルがあった。縦軸

   にアメリカという未来を,横軸に成功体験の過去を置くことで,微妙なバラン

   スをとっていたのである。このような時代に求められていた人間の能力は,過

   去の成功体験を頭にしっかりとインプットしておく,優れた「記憶力」である。

   過去の経験をまず覚えておかなければ,現状を分析することもできないからで

   ある。学校教育の方も,社会の動きに合わせて,覚えること,暗記することが

   最優先される。これが行き過ぎると,歴史的な出来事の内容は何も知らないの

   に,年代だけを符号で覚えるという非生産的な受験のためだけの勉強がまかり

   通る。受かった途端に,そのすべてが頭の中から完璧に消えた,という経験を

   した人は多いと思う。。



  
【激動とドッグイヤーの時代へ突入】

   
   時代は変わった。二十世紀の長きにわたる冷戦の終焉と共に.ベルリンの壁が

   文字通りハンマーで壊されたように,東西の壁は音をたてて崩れ,グローバル

   な世界が姿を現してきた。それと同時に,アメリカ発の本格的な情報化社会が

   到来したのである。「人,もの,カネ」に加えて「情報」が,世界各地を自由

   に走り回る,国際的なスケールでの過酷な競争が始まった。かつて経験したこ

   とのない,「ドッグイヤー」と呼ばれるほど,変化のスピードの速い世界に,

   バブルの傷で深く病んだ日本は放り出されたのである。そうなると,過去の成

   功体験は役に立たないばかりか,それに固執していると,とんでもないしっぺ

   返しを食うことになる。産業の米と呼ばれていた「DRAM」の世界シェアの

   80パーセントを握っていた日本の総合電気メーカーは,韓国のサムスン電子が

   「DRAM」生産に特化することにより,日本のシェアは根こそぎ奪われてし

   まった。世界経済が好況なときは,「DRAM」はべらぼうに儲かるという過

   去の成功体験が,経営判断を誤らせたのである。変化の速い激動の時代にあっ

   て,もはや前例主義は通用しなくなってしまった。日本は今,自分の頭で考え,

   自分の感性をも動員して,世界を構築する時代に入ったのである。



  
 【知識の意味が変わる ハードデスクの大容量化と「記憶力」】

   
   IT革命による情報化社会の到来は,知識(情報)の意味をも大きく変えてし

   まった。それは,コンピューターのハードデスクの大容量化と,インターネッ

   トのブロードバンド化の進展によってもたされた。私が最初に購入したコンピ

   ューターは,ハードデスクの容量が6GBで,周囲の人からもこれで十分だと

   言われていた。確かに,1.4MBのフロッピーでも,「字」だけで満杯にする

   には相当の時間が必要である。しかし,画像がやり取りされる時代になると,

   6GBの容量では直ぐに一杯になってしまう。私のコンピューターも年毎に容

   量が増え,今では120GBのハードデスクになってしまった。ハードデスクの

   容量が増えるということは,そこに記録しておきたい情報の量が多くなったと

   いうことでもあるが,その反面で昔のように何から何まで覚えておく必要がな

   くなったということをも意味している。本来なら頭の中にインプットすべき情

   報のうち,大半のものをハードデスクが代用してくれているのである。ここで

   は,もはや些細なことまで覚えておく必要はなくなった。覚えておくべき大切

   なポイントは,自分の価値観に基づいた情報相互の関連付けである。ハードデ

   スクの大容量化は,かつては最優先されていた能力のうち「記憶力」を人間の

   代わりにやってくれた。



   
【知識の意味が変わる ブロードバンド化と「知識袋」】

   
   従来,知識(情報)を得るための媒体は,学校教育をはぶけば,本や新聞や雑

   誌などの活字と静止画,そしてラジオやテレビなどの音声と動画が主なもので

   あった。しかし,情報化社会の到来に伴って,私の場合も情報の集め方が大分

   変わってきている。まず,テレビとの接し方がまったく変わってしまった。二

   十一世紀に入ってから,民放テレビは「遊びの世界」一色になってしまったか

   らである。長い不況で広告収入もままならないから,制作費のかからないクイ

   ズ番組とおしゃべり番組ばかりで,その上にさらに経費を削減するものだから

   「安くて,文句を言わず,癖のない」同じ顔ぶれのタレントだけが集まってし

   まった。もはや,ここから知識(情報)や教訓を得ようとするほうが間違いで

   ある。テレビが「遊びの世界」一色になってしまった一方で,インターネット

   は低速なダイヤル接続から,高速かつ常時接続のADSLのブロードバンドへ

   急速に移行し始めた。それまでは,記憶に自信のない些細なことでも,本を買

   って読んだり,図書館で調べたりと,金銭的にも時間的にも大きな制約があっ

   た。インターネットは,その時間的,空間的な壁を破ってくれた。通信料を気

   にせずに,WEBサーフィンは思いのままである。世界の情報が居ながらにし

   て手に入るのである。ここまでくると,インターネットは個人の強力な知恵袋

   ならぬ,情報の詰まった「知識袋」に変身した。「○×とは」と検索に入れれ

   ば,即座に多数の候補が呼び出されるのである。



   
  
 【「思考力」と「感受性」】


   それでは激動するドッグイヤーの時代には,人間にどのような能力が必要とさ

   れるのか。右肩上がりの安定した社会では,過去の成功体験を徹底的に学ぶと

   いうことは,一刻も早く社会に「同化」して,その一員になることを意味して

   いた。その武器が,知識と記憶力であった。しかし,社会の行くべき方向が見

   えない,定まらない激動の時代に,社会に同化することはできない。とすれば,

   コンピューターという機械にはできない「能力」で勝負するしかない。それは,

   考えること,感じること,つまり人間本来の能力である「思考力」と「感受性」

   をベースとした「分析力」「直観力」「想像力」「構想力」「創造力」を鍛え

   ることである。これらの能力を養う上で,気功はかなりの手助けをしてくれる

   ように思われる。というのは,気功のトレーニングに入ると,自分の家の床に

   立っているの確かなのだが,そこから自分だけが抜け出てしまって,別の世界

   にいるような感じを持つのだ。トレーニングしている間だけ,現実の「しがら

   み」から自由になれると同時に,いい意味の頭が真っ白という「無」に近い状

   態になれる。このことが,「分析力」「直観力」「想像力」「構想力」「創造

   力」を刺激しているように思われる。

   
           

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    Email aam13920@nyc.odn.ne.jp 編集 森澤陽子(准指導員)
  



      
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        【バーチャル気功空間 気の世界】隔週  
                                   
    発行元: 日本気功倶楽部
   監 修: 天地 一道
   編 集: 森澤 陽子


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