並木克敏(天地一道)

「バーチャル気功空間 気の世界」

2001.05.05 創刊




第四章 気と社会
   
(04-03) 劣化する日本人

欲望の解放から「中庸」の回復を (No.43)

   

2003.03.1



【劣化と悪化】

   
   「劣化」という言葉は, 新聞紙上を賑わしているので, 今回改めて辞書で調べ

   ることにした。驚いたことには「広辞林(三省堂)」と「新選漢和辞典(小学

   館)」には, 「劣」という漢字はあるものの「劣化」という熟語としては載っ

   ていなかった。そこで, 「世界大百科事典(平凡社)」で引くと, 「劣化」は

   「数学・物理・科学」の項目に入っており, 次のように説明されていた。「劣

   化」とは「老化とも。熱, 光, 放射線, 化学薬品, 機械的摩擦, 反復使用, 微

   生物などにより材料がもろくなること」とある。つまり劣化とは, 老化しても

   ろくなることである。それでは, 劣化の類似語である「悪化」はどうか。悪化

   とは「物事が悪くなること」とある。物事は, 悪くなることがあれば, 良くな

   ることもあるから, 「悪化」には救いがある。しかし「劣化」は, 老化ど同じ

   意味であるから, 人間の場合はクローン人間をこしらえない限り再生不能で,

   やり直しはできない。機械でも, 劣化した材料や部品はすべて廃棄し, 全面的

   に取り替えねば機能しない。それと同様に, 複雑な要因が絡み合って動いてい

   る人間の社会でも「劣化」してくれば, 小手先の対応ではどうすることもでき

   ず, 根本的な構造改革が必要となる。



【橋本大二郎高知県知事の次男 ワイセツ事件】
   
   
   先日, 荒廃した日本人の心の病の根深さと広がりを, まざまざと見せつける事

   件が起こった。それは, 橋本大二郎高知県知事の次男が起こした強制ワイセツ

   事件である。橋本知事の次男が, 知り合いの女性を無理やり車に連れ込んでワ

   イセツ行為をしたというのである。ご存知の通り橋本大二郎氏は, 正義と中立

   を旨とするマスメディアの中心にある, NHKの出身であり, かつ最も品性高

   く国民の鏡ともなるべき日本のドン, 橋本竜太郎元首相の実弟である。そんな

   意味では, 数年前, 麻薬事件を繰り返し起こし, 世の中を騒がせた豪邸に住む

   某女優の息子さんの場合とは, いささか事情が違うように思う。有名人といえ

   ども, あくまでも私人である。橋本高知県知事は一昨年, 成人式の会場で騒ぐ

   若者たちを, 一喝して男気のあるところを見せた。車内で傍若無人に振舞う若

   者に, 大人が何も言えなくなってしまった時代に, 橋本高知県知事は一人吠え

   たのだ。この熱血知事に, 世間は惜しみない拍手喝采を送った。それがどうし

   たということだ。 



【「法」なき無秩序な社会への序曲】


   あの成人式の記憶のまだ新しいうちに, 今回の事件が起こった。橋本知事の次

   男の年齢は, 38歳というからもはや若者ではないし, 強制ワイセツであるか

   ら, 成人式での目立ちたがり屋の空騒ぎではなくて, 立派な刑事事件であり,

   犯罪である。橋本知事の次男は, 知事が一喝したあの若者のはるか上を行って

   いたのである。この息子は, 親父を高知のドンキホーテにしてしまった。ここ

   で終わっていれば, 良家のお馬鹿さんの事件簿として済んでいたであろう。し

   かし, ここからが今日的である。被害者の話を聞いた知人が, 数人で橋本知事

   の次男に数千万円を支払うように強要した。恐喝である。彼らは, 恐喝未遂で

   逮捕されたというが, この事件は犯罪が犯罪を生む「法」なき無秩序な社会へ

   の序曲のように見える。隙あらばである。それも, 社会の辺境で起こった犯罪

   ではなく, 元首相の実弟⇒NHKアナウンサー⇒現職知事⇒次男という社会の

   中枢で発生した事件である。未成年の素人娘が「援助交際」という名の「売春」

   をなんの抵抗もなくやってのけ, 小学生が書店から大量の書籍を万引きして小

   遣い稼ぎするように, 強制ワイセツも恐喝も「法」をいとも簡単に飛び越えて

   しまったところに, 今回のこの事件の真の怖さがある。「脱法」行為が, 大人

   から子供まで日常化してしまったのである。



【魚は頭から腐る 組織も社会も同じ】
   
   
   「安全と水はタダ」という日本の神話は, はるか昔のものになってしまった。

   「法」なき無秩序な社会は, 広く, 深く, 全国津々浦々まで日々増殖を続けて

   いる。自転車の廃棄やごみの投げ捨ては, 今や罪の軽い部類に入る。少し前ま

   では, 勤勉で礼儀正しい日本人と, 外国人から見られていたのに, 何時の間に

   こんな社会になってしまったのだろうか。「魚は頭から腐る」というが, 人間

   の組織や社会も同様に, まず頭から腐ってきたように見える。その先頭を走っ

   たのが, 銀行、証券による旧大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待である。

   次いで, 外務省の4億6000万円にもおよぶび裏金作り。そして, 農水省と

   厚生省の狂牛病BSEへのあまりにお粗末な対応が続く。

そして, ここに「民」の横綱, 雪印が登場する。この会社は凄い。雪印乳業は,

   賞味期限の過ぎた牛乳を工場に戻して, そのままパックし直して再出荷すると

   いう離れ技をやった。その結果, 大阪を中心に1万人を超える食中毒の被害者

   を出してしまった。記者会見を早々切り上げて, 逃げるようにエレベーターに

   乗り込んだ社長は, 最後に驚くべき言葉を吐いた。「私は寝ていないんだから」

   ニュースを見ていた視聴者は, 企業のトップがこの程度の人でしかなかったと

   いう現実を知った。現在, 日本列島でリストラが吹き荒れているけれど, 最初

   にリストラされるべきは, この手の経営者だったのである。雪印のさらなる駄

   目押しが, BSE発生後に行われた国産牛買い取り制度を悪用した詐欺事件で

   ある。今度は, 雪印乳業の子会社である雪印食品が, 輸入牛肉を国産牛に偽装

   して買い取らせたのである。農水省の上を行っている。松屋は牛丼屋なのにカ

   レーライスだけの注文になってしまった。


  
【バブルの開花 欲望の解放】

   
   不祥事は, 中央官庁の専売特許ではなかった。警察のサポタージュ事件の続出,

   度重なる初歩的な医療ミス, そして, 先生のワイセツ行為の続発と, 本来なら

   指導的立場にあるはずの人々への信頼は, 再生不可能なまでに地に堕ちてしま

   った。これほど不祥事が, あちらからもこちらからも, 広範囲にかつ大量に噴

   出した時代を, 私は経験したことがない。

   その原因を一点に求めることはできないけれど, バブルの開花とその崩壊が,

   その後の日本人の心に重大な影響を与えたのは, 間違いないと思う。その一つ

   が「欲望の解放」である。日本は戦後, アメリカの支援を受けながら, 焼け跡

   の中から徐々に復興を遂げ, やがて1960年代の高度経済成長路線をぐんぐんと

   突っ走った。だが, 1973年の中東戦争の勃発で, 経済成長も壁に突き当たる。

   OPECは, 石油の値段を4倍に引き上げたのである。第一次石油ショックで

   ある。しかし, それに続く1979年の第二次石油ショックも, 日本人は勤勉さと

   血の滲むような努力で克服した。

   石油ジョックを乗り切ってみると, まったく意外な風景が広がっていた。日本

   は, もはや発展途上国ではなく, 比類まれな強国に生まれ変わっていたのであ

   る。この頃, アメリカの社会学者のエズラ・F・ヴォーゲルの「ジャパン・ア

   ズ・ナンバーワン」が出版された。明治以来, 長く長く欧米に劣等感を抱き続

   けていた日本人は, 最初は半信半疑に, やがて本当に「ジャパン・アズ・ナン

   バーワン」を信じてしまった。自動車や電化製品の大量の輸出によって, 貿易

   黒字は増加の一途をたどり, 世に言う「金余り現象」が生まれた。余った金は,

   土地, マンション, 株, ゴルフ会員権と, 手当たり次第に買われ, 日本列島は

   投機色に包まれてしまった。日本人は誰もが投機屋になり, 「金」に対する欲

   望は膨らむばかりで, もはやその勢いを止めるものは何もない。「金」に対す

   る欲望の解放は, 物欲や性欲の解放と共に, 「私利私欲」の道へ進むのは自然

   の成り行きだった。こうして, 心の中に長く閉じ込められていた日本人の欲望

   のすべてが, バブルの開花と共に解き放たれてしまったのである。



【中庸 人の道】

   
   すべての人の欲望が解放されれば, 当然のこととして欲望と欲望の衝突が起こ

   り, 私利私欲のみの追求は, 社会の秩序を危うくする。「法治」というのは,

   民主主義社会の根幹をなすものである。かつてヨーロッパ中世では, 自分の生

   命・財産を守るためには, 暴力行使の権利が正当化されていた。これは自己救

   済権(フェーデ)と呼び, 今日では正当防衛に限定され残されている。当時は,

   事が起これば, 当事者同士で決着するのが普通であった。穏便な場合には賠償

   で済むが, 物別れになれば, 暴力で奪うこともあった。こと殺人となれば悲惨

   である。親族同士が際限もなく殺し合うことになる。これは, 江戸時代の敵討

   ちに似ているから, 日本人にも理解しやすいであろう。やがて商業活動が活発

   になり, 中世都市が形成され始めると, フェーデの行使は経済の発展を疎外す

   るものとなる。そこで, 自己の生命と財産を守り, 都市の平和を維持するため

   に, 都市内に住む市民相互がフェーデを放棄し, 都市の法に服することにした

   のである。「法」は, 中世のヨーロッバ人が, よりよく生きるための知恵から

   生まれたのであった。そして, 近代民主主義社会も, この精神を引き継いでい

   るのである。

   バブル期の欲望の解放は, 私利私欲的人間を大量生産した。この病は, 学歴,

   職業, 地位に関係なく伝染する。いやむしろ, 学歴の高い, 地位の高い, 美味

   しい職業のところに, より増殖力が強いようである。「ネズミ講」のようなバ

   ブルがはじけ, 慌しい夢想の「宴」が終わった後, そこに残されたものは悲惨

   さだけである。欲望を全面解放するということは, 人間の営みが自制心を欠い

   て, ただ一方向に偏ることである。現代風に言えば, バランスを崩すことであ

   る。気功の一流派である儒家の「孔子」は, 「論語」の中で「中庸」を説いた。

   「中庸」とは, どちらにも極端に偏らない生き方や精神であり, 人が歩むべき

   道であることを孔子は示したのである。儒家にとって気功は, 人間形成のため

   の手段であった。気功は, 陰陽のバランスを回復するだけではなく, 精神のバ

   ランスをも回復できるのである。バランスのとれた精神は, 人の心を穏やかに

   すると共に, 人を幸せにするのではなかろうか。同じく明の時代の「洪自誠」

   も「菜根譚」で「中庸」を強調している。   
  

   

   ** 購読者コーナ **************************
     

  
 『もの凄い気感』(CSさん♂)
  
   『第2巻目を送っていただきました。以前、気功を少々学んだことがあり、気
   の感じ方は知っておりましたが、気感的には物凄いです。初日からびっくりし
   どうしです。2ヶ月以上毎日休まず続けています。これからもよろしくお願い
   します』


   『気場が広がるみたい』(零さん♂)

   『錬功を続けていると気感と感じるようになりました、手のひらから何かが出
   ています、たまに全身から磁場が周りに広がっていくような感覚を感じる事も
   あります。感情が不安定で錬功出来ない日も結構あるのですが、これからも努
   力は続けていきます。』


    『食べ過ぎてしまうほど』(米国在住 MHさん♂)
   
   『前回の外気功第一功法は今までの功法の中で一番強力でした。胃腸の調子が
   すご良くなり食べてもすぐお腹が減ってしまい食べ過ぎになったくらいです。
   食べ過ぎになっても便通も速やかなので苦しくなることも在りませんでしたが、
   血のサラサラ度が落ちて脳に上手く流れないためか本を読む時など集中力が落
   ちたのがマイナスでした。まあこれは自分のコントロールの仕方にも問題があ
   りましたが。第二回の功法も強力だと言うことなのでこれからが楽しみです。




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    Email aam13920@nyc.odn.ne.jp 編集 森澤陽子(准指導員)
  



      
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        【バーチャル気功空間 気の世界】隔週  
                                   
    発行元: 日本気功倶楽部
   監 修: 天地 一道
   編 集: 森澤 陽子


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