並木克敏(天地一道)

「バーチャル気功空間 気の世界」

2001.05.05 創刊







第四章 気と社会

(04-01) 二極化の時代

自助努力と自己責任(No.41)


2003.02.15




   【「気と社会」のはじめに】   
   

   
そう深く考えずに「気と社会」の目次を書いてしまったが, 改めて目を通して

   見ると, その内容のの大きさと深さと広がりに, ただ々々唖然とするばかりだ。

   失われた十年の経済問題が, 金融再生や規制緩和, 特殊法人改革や郵貯改革な

   どというテーマで新聞や雑誌を賑わしているけれど, 失われたものはなにも経

   済だけではないのである。現在の日本の社会と, その中で暮らす人々の営みを

   見るとき, その姿を肯定的には捉えることができないのは私だけであろうか。

   経済と共に社会の歯車もまた, 一緒に狂い始めているように思えてならない。

   私は決してペシミズムではないのだが, 目次を書き終わったとき, 無意識に

   も今の社会を否定的に捉えている自分に気が付いた。そのどれ一つをとっても,

   現代日本が直面している重いテーマであり, 私のささやかな体験と私の稚拙な

   思考では, 決して全体をカバーし切れるものではないのは当然である。したが

   って, アウトラインのアウトラインの, そのまたアウトラインでしかないこと

   を初めにお断わりしておきたい。その上で現在, 日本で起こっているいろいろ

   な社会現象の真っ只中で, 人が幸せになるためにはどうしたらよいのか, 気や

   気功の世界からその道を探ってみたいと思う。
   

   「気と社会」については, 気功のトレーニングの体験を通して語ってきたこれ

   までの「気の世界」とは違い, まず私の時代の見取り図を先に描かねばばなら

   いと思う。社会について触れるとき, 経験したものをただ書けばいいというも

   のではないからである。少し長くなるけれど, これから続く項目とも関係して

   くるので, ご容赦して頂きたい。



  
 【デフレ下での国際的な競争の時代】  
    
   
   二極化の時代の到来は戦後, 右肩上がりに高度経済成長をとげてきた日本が,

   みな等しく豊かになり, 誰もが中産階級を自認していた横並びの時代とのお別

   れを意味している。そういう変化の波が今, 企業や団体だけでなく, 個人を含

   めてすべての人々とすべての分野を飲み込もうとしている。すでに企業では,

   勝ち組みと負け組みの二極化が激しく進行している。経済も社会も生き物であ

   るから, 勝ち組みと負け組みが永遠に続くものでもなく, 昨日の勝ち組みは明

   日の負け組みかもしれない。その証拠に, 昨日まで飛ぶ鳥を落とす勢いのユニ

   クロやマクドナルドの集客力に陰りが見え, IT時代の寵児と絶賛された孫氏

   の率いるソフトバンクも迷走を始めている。かくも浮き沈みの激しい時代に突

   入してしまったのである。二極化とは, 物が売れないデフレ下での猛烈な競争

   社会の結果である。しかも米ソ冷戦の終焉に伴い, モノとヒトとカネは国境を

   軽く飛び越え, 国際的なスケールでの生き残りをかけた競争ともなっている。

   勝ち組み側に立つか, 負け組みに甘んじるか, その勝負を賭けた「デブレ下で

   の国際競争の時代」が, 今日の日本の社会現象の背景をなしているのである。



   
【かつて幸せな時代もあった】

   
   誰もが中産階級を謳歌した高度経済成長の時代には, サラリーマンの生活は,

   国家レベルで, 企業レベルで, そして労働組合レベルで制度上, 幾重にも手厚

   く守られていた。企業には, 終身雇用と年功序列という制度と, 強力な労働組

   合のバックアップがあった。悪いことをしない限り, 身分は保証されるだけで

   なく, 年々給与は上がり, うまくいけば係長や課長のイスも夢ではない。クー

   ラーをつけた涼しい部屋で, 家族と一緒にカラーテレビを見ながら団欒したあ

   と, 夕方には車でファミリーレストランへ行き食事という生活は, 戦後の焼け

   跡派世代にとって天国であったに違いない。年毎に生活が充実していくという

   実感を日本人の誰もがもてた良き時代であった。そして, 無事に勤めを終えれ

   ば, たいそうの退職金が入り, 少し待てば悠悠自適の年金生活だ。息子夫婦と

   の同居で可愛い孫の世話をしながらゆたくりと暮らし, 病気になったら無料の

   老人医療を受ければいい。かつてマルクスやレーニンが夢想した理想的な社会

   主義の生活が, ここに実現していたかのように見える。こんな結構な生活なの

   に, 当時は決められたレールに乗るのは嫌だと, 反旗を翻した長い髪をなびか

   せた若者たちがいた。


   高度経済成長路線の最後のあだ花は, 二十一世紀中に再来するとはもはや思わ

   れない歴史上の「大バブル」の狂い咲きであった。どんな土地でも買えば上が

   り, マンションも上がり, ゴルフ会員券も上がり, そして株も上がった。JR

   に乗れば, 車内のおばさんはみんなミンクのコートを着ていた。欧米に学ぶべ

   きものはもはや何もないと, 日本人はみな有頂天になって, その豊かさを自由

   気ままに謳歌した。踊りのメッカ, 「ジュリアーノ東京」のお立ち台が, 一晩

   2,30万円で売買されていたのである。国家も, 企業も, 個人も, 有頂天に

   なったとき, そこに凋落のタネを宿すことは歴史が証明している。



   
【前にアメリカ 後ろに中国】
   
   
   バブル崩壊後のこの十年余で状況は一変した。日本がバブルではじけた不良債

   権の処理でにっちもさっちもいかず, ただ土地の価格が下がるのを呆然として

   眺めている間に, アメリカは, IT(情報技術)をテコに情報革命を仕掛けて

   きた。1993年クリントン民主党政権誕生すると, 副大統領のアルバート・ゴア

   は, 情報スーパーハイウエイ構想を国家プロジェクトとして推進した。さすが

   にアングロ・サクソンの構想力は, 産業革命も先導したという実績をもつだけ

   にだけに, ずば抜けている。日本が, 情報革命の重大さに気づいて参入したと

   きには, インテルやマイクロソフトなど欧米の企業に情報技術の基本特許はみ

   な押さえられていた。完敗であった。それだけならともかく, それまで発展途

   上国と見なしていたアジアの国々が, 日本に追いつけとばかりいっせいに台頭

   してきた。日本を先頭にして, その後を韓国, 台湾, シンガポールなどのNI

   ES諸国が追い, さらにその後をタイ, マレーシア, フィリピンなどのASE

   AN諸国が続き, そして最後尾に中国が控えていた, あの美しい雁行状の形が

   崩壊したのである。なかでも, 最後尾にいた中国が, 世界の人口の20%を引

   きつれて動き出したのである。広大な土地とべらぼうに安い人件費を武器に,

   日本に工場進出を迫る。先行するアメリカと台頭する中国の間に挟まれて, 日

   本は押し潰されようとしている。



   
【終身雇用と年功序列の崩壊】

   
   このような状況の中でまず最初に改革を迫られたのは直接, 国際競争に晒され

   ている企業群であった。国際競争力回復のための改革とは, 新しい技術や製品

   の開発が経営の本道であろうが, 短期的には人件費の抑制に向かわざるを得な

   い。今までサラリーマンを手厚く保護していた各種の制度や慣習の見直しであ

   る。まず, 恒例になっていた春闘のベアの抑制に始まり, 日本のサラリーマン

   の特権であった年功序列と終身雇用も, 経済状況の一層の悪化に伴い, 次第に

   聖域ではなくなっていった。リストラの嵐が日本を吹きまくると, 終身雇用は

   事実上解体した。運よく残った者も, 職場はもはや実力主義の世界に作り変え

   られ, かつての部下は今は上司だ。労使の調整役であった労働組合はどうであ

   ったのか。米ソ冷戦の終焉によって, 日本社会党はその存在理由を失うことに

   なる。社会党が解党すると, その下部組織である労働組合も力を失い, 経営者

   とストライキで対抗する元気もなくなり, もはや昔日の面影はない。このよう

   にして, 職場でサラリーマンの生活を手厚く保護していた制度や慣習が, 一つ

   一つ剥ぎ取られていった。職場は, もはや家族のような運命共同体ではなくな

   っていた。会社人間として一生を捧げ, そしてリストラされた中高年の企業戦

   士は, 自分の青春を振り返ったとき何を想うであろうか。  



  
 【老人医療制度と年金制度の瓦解】


   サラリーマン生活をうまく乗り切れたとして, 退職後の生活の方はどうなって

   いるのか。老後の生活を公的に保証してくれるのは, 老人医療制度と年金制度

   である。まず老人医療制度はどうか。高度経済成長期の1973年に, 70歳以上を

   対象に老人医療費の無料化が行われた。今からすれば嘘のような話しであるが,

   これが老人医療費の急激な増大を引き起こし, 財政の悪化を招くことになる。

   このため, 1982年に一定額を本人が自己負担するように変更された。それでも

   老人の医療費は増加の一途で, 日本の総人口がピークを迎える2007年の2649万

   人(全人口の20.7%)からさらに上昇を続け、2049年のピーク時には3270万人

   (全人口の32.3)にまで達すると推定されているから, 老人医療費は, これか

   らも増えることはあっても減ることはない。さらには, 日本は少子化に向かっ

   ているのであり, 分母(子供世代)が減って, 分子(老人世代)が増えるのあ

   るから, 小学生の算数で計算しても, 老人の自己負担が増すのは必然である。

   それを消費税アップで乗り切ろうとしているが, はたして可能なのかどうか。
  

   年金制度もまた大きな問題に直面している。従来の確定給付型年金は, 加入し

   た期間や給与等であらかじめ給付される金額が決まっていました。それが可能

   だったのは, 約30年間5.5%という予定利率を前提にしていたからである。しか

   し, 長期化している日本の歴史的な低金利と, 株式市場の右肩下がりにより,

   年金資産の運用状況は悪化してしまった。会社が積み立ての不足分を補うのは,

   デフレ下の国際競争の時代には荷が重い。そこで飛び出したのが, 確定拠出年

   金制度, いわゆる日本版401kであった。日本版401kは, 自己の責任において運

   用商品を選び、自分で年金資産を運用せよというものである。運用次第では,

   泣く人もいれば, 笑う人もでよう。もはや年金も横並びではないのである。



   
【裸に晒される個人の自助努力】
   
   
   バブル崩壊後のこの十年余の短い歴史を, サラリーマンに焦点を合わせて見た

   とき, 手厚く保護されていたその個人の特権が一枚一枚脱がされて, 北風の吹

   く寒い土手に裸で放り出されてしまった過程といえそうである。それは, 米ソ

   冷戦の終焉に伴う, デフレ下での国際競争時代の歴史的な産物なのである。近

   年アメリカで, エンロンとワールドコムの不正経理が発覚し破綻、不正に関与

   した世界に冠たるビック5の一角だった監査法人アンダーセンが消滅し, 効率

   性だけを求めるアメリカの企業に批判が集中している。しかし, 軌道修正され

   ることはあっても, 国際競争の時代にいささかも変わりはない。デフレ下の国

   際競争の時代にあって, 国家も企業も社会も, 個人に「自己責任」を求めてい

   るのである。仙人のように社会から断絶して暮らすことも一つの生き方である。

   しかし, 多くの人々は, この社会とのひがらみの中で生きざるをえない。「自

   己責任」から逃れるすべがないとすれば, 「自助努力」で対抗するしかない。

   職場では, 自分しか出来ない専門性を身に付け, 日本版401kでは, 利殖の方法

   を学べばよい。そして, 自助努力の根底をなしているものが, 古くから言われ

   続けてきた「身体が資本」なのである。裸に晒された個人が生きるるためには,

   今ほど健康が求められている時代はないように思う。自分の健康は自分の手で。

   もう他人任せにはできないのである。

   
   
   
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    Email aam13920@nyc.odn.ne.jp 編集 森澤陽子(准指導員)
  



      
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        【バーチャル気功空間 気の世界】隔週  
                                   
    発行元: 日本気功倶楽部
   監 修: 天地 一道
   編 集: 森澤 陽子


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